月影
「正直参ってんだよ、俺も。」


やっと口を開いた嶋さんは、疲弊した顔をしていた。


隙がないような男だと思っていただけに、少し驚いてしまう。



「お前も清人も、使い捨てるためのガキだったはずなのによぉ。」


涙混じりに睨み付けたあたしに向け、彼は肩をすくめて見せた。



「息子同然のクソガキに命助けられて、そのまま死なれちゃ迷惑なんだよ。」


ひどい言い草なのかもしれない。


それでもこれが、嶋さんの精一杯だったのかもしれない。



「アイツが死ぬみたいな話、せんといてください。」


ギンちゃんが言うと、嶋さんは静かに立ち上がった。


そして一言もあたしに言葉を掛けることはなく、背を向ける。



「任せたぞ、陸。」


はい、とギンちゃんは呟いた。


次第に皮靴の音は遠のき、沈黙の帳が下りる。


視線を滑らせ、ジルの病室の扉にそれを向けた。


シュウのときのことを思い出すと、どうしようもなく胸がざわつくのだ。


何事もないはずだった。


それでもあの子は逝ってしまった。


だからあたしなんかが何をしたとしても、ジルに届く気がしなかったのだ。


だって向こうには、彼を苦しめるものなんか何もないし、花穂サンだって居るのだから。


悲しくなった。

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