月影
「コイツ、何もかもを背負い込むやろ?
俺と理乃のこと心配する前に、することあったはずやのに。」


理乃、とは、ギンちゃんの妹さんのことだろうか。


確か、抱けない女だと、前にジルが言っていた。



「アカンわ。
年取るとしょっぱい話ばっかやなぁ。」


そう言いながら、彼は力なく笑う。


少年のようなヤンチャな顔でもなく、いけ好かない瞳でもない、その横顔。


きっと、誰より親友を大事に思っている、素顔なのだろう。



「…そういう友情、あたしにはないんだ。」


呟いたあたしに彼は、



「キヨは俺の中のヒーローやから。
クソ喰らえな人生やったけど、コイツがおったから救われてん。」


そう言って、誇らしげな顔をした。


どんな時でも一緒やった、と彼は言う。


良いことも悪いことも、辛いことももちろん楽しいことも、ふたりやったから乗り越えて来られた、と。



「なのにお前まで先に死んだら、俺どうすればえぇねんな。」


ギンちゃんももしかしたら、過去に大切な人を失ったことがあるのかもしれない。


呼吸を落ち着けるように息を吐き、彼は宙を仰いだ。


真っ白い部屋で見る彼らは、やはりどこか別人のよう。



「俺、ちょっと外の空気吸ってくるわ。」


そう言って、ギンちゃんはひとり静かに部屋を出た。


ジルはずっと、ぴくりとも動かずにそこに眠ったまま。


取り残されると、急に不安に襲われる。

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