月影
あれからどれくらいが経ったのかはわからない。


ただ、部屋を包むのは沈黙のみで、そこに心拍計の機械音が定期的に響くだけ。


ギンちゃんは壁に寄り掛かったまま佇み、あたしはジルの手を握ったまま、丸椅子に腰を降ろしただけの状態だ。


言葉は交わさなかった。


口を開けばどちらからともなく不安を漏らしてしまいそうで、だから怖かったのだろう。


そんなさ中だった。








「…ジル?」


微かに、その指先が動いた気がした。


呼び掛けると彼はゆっくりと薄目を開けるように、眉を寄せる。



「おい、キヨ!」


弾かれたようにギンちゃんも彼の体を揺すり、ジルは薄く開いた唇から、痛ぇ、とかすれた声を漏らす。


安堵して、ただ涙が溢れた。


ギンちゃんもまた、手の平で顔を覆い、ジルの定まらない瞳だけが宙を泳ぐ。



「…お前、どんだけ心配さすねん…」


嶋さんは無事やった、アイツ捕まったで。


そんなことを口から漏れるままにギンちゃんが伝えると、ジルは頼りなくも口元を緩めて見せる。



「俺とりあえず、嶋さんに伝えてくるから。」


あたしを一瞥したギンちゃんは、ふたりきりにさせようとでも思ったのだろう、そう言ってすぐに部屋を後にしてしまう。


握ったままの手は、まだ繋がっていた。

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