月影
「おかえり。」


そう言ってから、もう帰るよ、とあたしは言った。


だけども繋いだままの手を外すことは叶わず、ジルは瞳を窓の方へと向けてしまう。



「…何でお前が居んの?」


当然の言葉だろう。


だけども彼は、次にはいつものように悲しそうな顔で、ため息にも似た息を吐く。



「お前はもう、俺のために泣いてちゃダメだろ。」


言葉なんか用意しているはずもなく、頭の中は真っ白いままだ。


途端に悲しくなった。



「…一緒に、死ぬんでしょ?」


頼りなくもそう聞くと、ゆっくりと、彼の驚くような瞳がこちらに向く。


諦めたように口元だけを緩めると、ジルは少し呆れたようで、でも嬉しそうな顔にも見えた。



「花穂が居たんだ。
だから久々に俺の単車乗せてやるよって言ったのに、もうピヨとは遊びたくない、ってさ。」


何を言っているんだかは、わかんない。


それでもジルは、まるで夢の中の出来事でも話すかのように、遠い目をして懐かしそうに言葉を紡ぐ。



「忘れものしてる、ってアイツ言うんだよ。」


そして、あたしへと視線を投げ、



「俺、このままじゃ約束のひとつも守ってねぇ男だもんな。」

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