月影
フェンスの向こうには、20センチほどの幅しかなかった。


平均台を歩く時のように、手を繋いであたし達は、そこに歩を進める。


座り込み、足をブラブラさせながら、高いね、と下を見降ろした。


玄関口に居た車の数は少し減っていたが、それでも男達が動いている。


ちっちゃくて、当然ながら、こんなところに居るあたし達のことなんて気付いてもいないといった風だ。



「あたし達が死んだら、何人が泣いてくれるかなぁ?」


そう問うと、彼は懐かしくもあたしの頭を撫でてくれた。


風が舞い上がる中で、血の匂いがする。



「あたしが後悔してるとでも思ってる?」


「…いや、悪ぃなぁ、とは思うけど。」


「もう、疲れることにも疲れたよ。」


ジルの体に頭を預けると、彼は小さく小さくキスをしてくれた。


出会ったことに、後悔はない。


運命は初めから決まっている、なんて言うけど、だからこれも必然なのだろうと思う。



「ジルがあたしを見つけ出してくれたこと、感謝してるよ。」


「俺さ、何で生きてんだろうな、って思ってたんだ。
けど、もしかしたらお前と死ぬためだったのかなぁ、って。」


「じゃあ、あたし達は今、きっと幸せなんだね。」


とても穏やかだった。


拓真は怒るかもしれないし、岡ちゃんは馬鹿野郎、と言うのかもしれない。


両親は間違いなく、自殺なんて、と世間体を気にするだろう。


でも、ジルが言うように、これがあたしのたったひとつの我が儘だった。

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