月影
「拓真ってさ、本カノ居るの?」


「居ないよ。」


「欲しいとか思わないの?」


「じゃあ、レナがなる?」


「何でよ。
てか、あたしで色恋すんな。」


「怖ぇよ!」


あははっ、と彼は、声を上げて笑った。


人が折角真剣に聞いていたのに色恋営業しやがって、とあたしは、口を尖らせるようにグラスを傾ける。


まぁ、コイツは本気で口説いてるってわけじゃないのも知ってるし、本当にただの友達って感じだからこそ、睨むだけで終わってやってるけど。



「気になる人でも居るの?」


「居ませーん。」


結局、聞かれるのは似たようなことばかり。


あたしは宙を仰ぐように軽く言い、頭に浮かんだジルの顔を振り払った。


どこもかしこも偽物の愛ばかりが安く売りさばかれていて、そんなものを見ているからか、どうにも愛ってものの存在そのものを疑ってしまうのだ。



「今日はさぁ、トコトン飲もうよ!」


それからあたしは、葵や聖夜クンが止めるのも無視で、ガンガンに飲みまくった。


拓真だけはそんなあたしを好きにさせてくれて、そういうところも嫌いじゃない要因なのだろう。


彼はどこか、高校の頃に付き合っていた人を思わせるから。



「拓真も飲めー!」


「レナ、ピッチ早ぇよー。」


「うるさーい。」


多分あたしって、どうしようもないくらいに馬鹿なのだろう。


まぁ、そんなの今にわかったことじゃないから、別に良いんだけどさ。

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