月影
やれやれ、と言った様子の嶋さんは、長く煙を吐き出した。



「昔言ったろう?
俺にもふたり、血の繋がった息子が居るんだ。」


語り始める彼は、視線を宵闇の空へと移した。


次第にそれは明るくなり始め、夜明けの訪れを教えてくれる。



「もう10年以上会ってねぇけど、お前らより少し下だっけなぁ。
だから俺はよぉ、どうしてもお前らのこと息子らと重ねちまうんだろうなぁ。」


言いながら、嶋さんは煙草を指で弾いて飛ばした。


が、すぐにまた、新しい煙草に火をつける。



「新しい一日の始まりだ。
お前らはもう、今日からはジルでも銀二でもねぇんだ。」


「…嶋、さん…」


「助けてやった以上の働きしてたろう、お前らは。
元が取れたし、儲けたよ、俺も。」


そしてマズいな、と言いながら、先ほどつけたばかりの煙草をさっさと捨ててしまう。


そんな一連の動作を見ていることしか出来なくて、目が合ったジルは、やはり少し困惑しているようだった。



「わかってねぇツラしてんじゃねぇよ。
とどのつまり、お前ら今日から自由ってことだ。」


やっぱり嶋さんの顔は、やれやれと言った風だった。


戸惑いを見せていた彼らはそんな一言で、にわかに顔をほころばせる。



「…金、は?」


「いらねぇよ、そんなもん。
清人のはした金なんか貰ったって、何の足しにもならねぇ。」


嶋さんという人が、わからなくなる。


恐ろしく威圧的で、目が合っただけで人でも殺しそうだと思っていた最初のイメージとは全然違い、今はひどく穏やかな男だ。


まるで彼らの父親のよう。

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