月影
「それより清人、お前すげぇ血だぞ?
何かそこまでいくと気持ち悪ぃから、さっさとこっち来いよ。」


そこで初めて、思い出したようにあたしは、彼の脇腹を見た。


服は大部分が鮮血に染まり、さすがに驚いてしまうのだが。



「ほら、ネーチャンもこっち来いよ。」


あれほど思い詰めていたことも、この人に掛かればなんてことはないのかもしれない。


またジルと顔を見合せ、あたし達はフェンスを頼りに彼らの元へと戻った。


そこまでの全てを見届けると、嶋さんはきびすを返し、さっさと立ち去ってしまう。


ジルとあたしとギンちゃんは、何だか滑稽っぽくも取り残された形だ。



「…何か、これからどうしよう、って思ってんの、俺だけ?」


「いや、お前は間違いなくこの後医者に説教されて、傷塞ぎ直さなアカンと思うで?」


間抜けな夜明けだった。


実はすげぇ痛かったんだけど、なんて言うジルは諦めたように青い顔してて、大丈夫かなぁ、とは思う。



「それよりお前、どんだけ俺の寿命縮めれば気が済むねん!」


「あぁ、悪ぃ悪ぃ。」


この人たちと居ると、とにかくどこか他人事のような感じで終始する。


煙草を取り出したギンちゃんのそれをジルが奪い、軽く心配する気も失せてしまうが。



「まぁ、もう何でもえぇわ。
何や俺も拍子抜けやし。」


「つーか俺ら、ホントにもう普通に生きて良いのかな?」


呟きにも似た台詞を吐き、ふたりは昇る朝日を黙って見つめていた。


彼らにも、5年という歳月は長すぎるものだったのかもしれない。


それでも憑きものでも取れたような顔に、あたしは呆れるように笑っていたのだ。

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