月影
嶋さんはあの日の夕方、本当に小さな傷害事件を起こし、逮捕された。


まだ勾留中ではあるが、懲役3年くらいじゃないかとジルは言う。



「多分、警察と取り引きしてんだと思うけど。
こっち認めれば、こっちの罪は問わない、みたいなのあるから。」


だからノミ屋やバカラ賭博、警察との密通は伏せられるだろう、と。


そんなものが実際にあるのだろうかとは思ったが、警察としても組幹部を表に出さないように、とにかく色々と取り引きを持ち掛けるらしい。


やっぱり警察もまた、ろくでもないようだ。




あたしは無断欠勤を続けていたため、3日目にはクビになった。


店長は戻れるようにしてくれると言ってくれたが、あたしはそれを断ったのだ。


別に、キャバクラで昇り詰めたいわけではない。


ただ、居場所が欲しかったのだ。


期待を掛けてくれた店長には申し訳ないが、それでもあたしもやっぱり、ジルと一緒にこれからのことを考えようと思った。


岡ちゃんは怒っていた。


けど、適当な最後を飾るな、とは言われたものの、幸せになれよ、と言ってくれたのだ。


やっぱりあたしは、岡ちゃんの元に生まれたかったなぁ、と思い直した。





ジルはあたしのことを未だに“レナ”と呼ぶし、あたしも彼のことを“ジル”と呼ぶことは変わらない。


ギンちゃんは変やん、と言って笑っていたが、まぁ、あだ名のようなもので、今更変えるのもなぁ、といったところだ。


毎日はくだらないが、それでも楽しい。


心許せる場所で、つまらないことを言い合いながら、ふたりの時間を紡いでいる。


ジル曰く、これが花穂の言う“忘れもの”の意味だったのかなぁ、と。


よくわからなかったけど、でも、ふたりで小さな幸せを見つけ出した気がした。

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