月影
「…それって…」


「あぁ、聖夜ね。」


言い直した葵に、今度はあたしの方が目を白黒とさせてしまう。


じゃあその指輪は、聖夜クンに貰ったものなのか。



「まぁ、恥ずかしい話なんだけどさぁ。」


そして彼女は話し出した。


聖夜クンはホストを辞めた後、実家に戻ったらしい。


何でも彼の家は酒屋らしく、今は店に立ったり配達をしたり。


まぁあの顔なので、おばちゃん方に人気らしく、少しばかり板につき始めたと葵は言う。


で、葵もあの一件以来実家に戻って引きこもっていたのだが、そんな時に彼から連絡をもらったようだ。


会いたくない、と彼女は言った。


でも聖夜クンは、毎日他愛もない電話やメールをくれ続け、少しづつ、葵もそれが楽しみになり、外に出ることが出来るようになったようだ。


久しぶりに会って、あたし達は何をやってたんだろう、ってことになり、まぁ、そういうことになったらしい。


だから働くことが出来るのも、支えてくれてた彼のおかげなのだと言う。



「今はお互い実家だけどね、そういうのも高校生みたいで楽しいしさ。
それにほら、酒屋の客なんておっちゃんかおばちゃんばっかだから、前みたいな心配って全然ないじゃん?」


「大切にしてもらってんだね。」


きらりと光る指輪を見ると、あたしまで嬉しくなった。


葵は優しい顔をしていた。


だからきっと、聖夜クンも同じくらい優しい顔をしているんだろうな、と思う。

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