月影
「でも、何で一緒に暮らさないの?」


「何かね、俺が一人前になったらね、って言うんだよ。
そういうとこ古風なんだよ、あの人。」


笑ってしまった。


そういえば彼は、誰も気にしないようなことにこだわる人だっけ。



「…それよりさ、拓真っちと別れたんでしょ?」


「あぁ、うん。」


先ほどまでは笑っていたはずなのに、急にトーンダウンしてしまう。


聖夜クンはあたしと拓真が付き合っていたことを知っているし、やっぱり申し訳ないと思ってしまうから。



「コウさ、拓真っちに会ったらしいよ。」


「…そう。」


「レナに振られて落ちてたって。
でも今は、ロージーのナンバーワンの子がお客になってくれたって喜んでたらしいよ。
強がってるみたいだけど元気そうだ、って。」


「そっか。」


“ロージー”は、誰もが知るキャバクラだ。


そこのナンバーワンの子がついているなら、拓真も大丈夫だと思う。


彼と会うことはないけれど、やっぱり頑張ってほしいと思うのだ。



「レナは拓真っちよりジルさん選んだわけじゃん?
だったら拓真っちとのときより幸せにならなきゃじゃん。」


「そうだね。」


アイズの元ナンバーワンであり、今は受付嬢の彼女なのに、喋り言葉の適当さには苦笑いだ。


それでも、何だか力が抜けてしまい、窓から差し込む陽に目を細めた。


とてもとても穏やかだったから。

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