月影
「人生ってさ、死ぬまで通過点じゃん?
過ぎてみれば何事も思い出、って言うけど、そんな感じだよね。」


「葵、何か悟ってるね。」


「おばさんっぽい?」


「ちょっとね。」


「マジ?!」


心の底から笑っていた。


葵は何故か、焦った様子で手鏡を取り出し、髪型がダメなのかなぁ、とよくわからない悩みでブツブツと漏らしている。



「で、レナはどうなの?」


「何が?」


「ジルさんとのことだよ。
付き合ってるんだし、どうなの?」


「…どうって聞かれても、ねぇ…」


正直、付き合ってるのかすら疑問だ。


別に一緒に暮らしてるわけでもなく、そんなに頻繁に会ってるわけでもない。


愛の言葉をささやかれたりもしないし、たまーに一緒に過ごす程度だ。



「まぁ、時間が合えばご飯行ったり?」


「…何かアンタらしいとは思うけど、それって寂しくなったりしない?」


「しないんだよ、不思議なことに。」


だってジルは、何だかんだであたしのことをよく知ってるから。


ふと、ひとりで過ごしたくないと思った夜には電話が掛かってきたり、ちょっと高いワインを買った時には、見計らったように現れたり。


何より、会おうと思えばいつだって会えるから。



「そういう距離感で良いんだよ、あたし達は。」

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