月影
葵と別れたときには、もう陽が傾くような時間だった。


久々に街に来たし、と意味もなく歩いていたところで、後ろから呼び止められた。



「レナ?」


振り返ると、小包片手の彼の姿に、思わず笑ってしまう。



「ジルとこんなとこで会うとは思わなかった。」


「俺もだけど。
すげぇ偶然だな。」


約10日ぶりの再会も、こんな感じ。


相変わらず黒で塗り固めたようなファッションを好み、ちょっと見はやっぱり怪しい人にしか見えない感じだ。



「ジル、仕事じゃないの?」


「あぁ、明け方までシェイカー振ってた。」


「…シェイカーって、バーテンでもやってんの?」


「言ってなかった?」


「うん、知らなかった。」


「俺が作る酒、美味いんだぜ?」


「へぇ。」


あたし達は別に、頻繁に連絡を取るような間柄ではない。


それは今も変わることはないようで、だからこういったことも日常だった。



「じゃあ今日、お前誘えば良かった。」


「あたしさっきまで親友と居たから、誘われてもねぇ。」


親友、と言ったあたしを一度驚いた顔で見た彼だったが、「そっか。」と次には口元を緩めた。


すっかり刺された傷も癒え、元気そうだ。

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