月影

「俺らみんな、戸籍はそれぞれの父親んとこにあんだよ。
だから苗字違うわけだ。」


それでか、と納得した。


でもジルは、「それっていつでも子供捨てられるってことだよな？」と、笑う。


マサくんも笑っていたけど、アユちゃんだけは、携帯をいじっていた。


親権が母親にないということは、土壇場で子供を捨てられるということ。


「まぁ、やりかねない人だもんなぁ。」と言いながら、「でも結局、そういうのなかったもんなぁ。」らしい。



「都合良い人だもんね。
普段は子供の存在忘れてるくせに、急に寂しくなって思い出したようにすり寄ってくるんだもん。」


マサくんは苦笑いだった。


兄ふたりはそういう人だよ、と割り切っているが、アユちゃんだけは、そうではないのだろう。


“頭のおかしい母親”と言っていた言葉を思い出した。



「アユはさぁ、親と長く暮らしてたわけだし？
でも表立って寂しいとは言えないんだよ、俺らの手前。」


ジルもマサくんも、実の父親の記憶というものはほとんどないらしい。


けど、アユちゃんだけは違うのだ。



「言わなくて良いし！
てか、あたしその人認めたわけじゃないもん！」


子供のように、アユちゃんが口を挟む。


マサくんはそんな彼女にキレていたが、ジルは困った様子で見つめていた。


どうやらあたしは部外者ってことだろうけど。



「アユ、彼氏とラブラブっつってたじゃん。」