月影
「キヨ兄は別なの、初恋なの!
それなのに何よ、マサ兄の馬鹿!」


どうしたものかなぁ、と思った。


が、テーブルの上に置かれていたメイクポーチの中に、見慣れたものを発見する。



「アユちゃん、このブランド好きなの?」


「……へ?」


「あたし使ってないのいっぱいあるし、貰い物でよければだけど、今度あげるよ?」


偶然にも、彼女が使っているお化粧品のサンプルは、キャバ時代のお客で営業してるって人が居て、たくさん貰った記憶がある。


思い出したように言うと、先ほどの怒りもどこへやらの彼女は、ぱあっと瞳を輝かせ、「お姉様!」と言ってくれた。



「ホントに貰って良いの?
てか、超欲しいし、マスカラの伸び良いよね!」


「あぁ、そうだね。」


思わず気迫に押されてしまう。


ジルは呆れていて、マサくんに至ってはそんなの無視とばかりに冷蔵庫に向かった。


やっぱり高校生の女の子だなぁ、と思う。



「つーか、そんな喜んでる中で申し訳ないけど、これ、兄ちゃんからプレゼントね。」


化粧品じゃないけど、と言ってジルがアユちゃんに渡した物は、先ほどの小包だった。



「アユ、誕生日おめでと。」


ジルが付け加えた瞬間、彼女は飛び上がって喜んでいた。


懐かしくも羨ましい兄妹の光景だ。


シュウのことを思い出し、あたしも小さく笑う。

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