月影
「愛里ちゃん!」


と、びしっとあたしに人差し指を向けたアユちゃんは、



「お兄ちゃんはあげるわ!
その代わり、泣かせたら許さないからね!」


「いや、普通それ俺の台詞だし、つーか泣かないし、化粧品と交換かよ。」


ジルは何だかなぁ、といった顔だった。


あたしは思わず声を上げて笑ってしまい、「変な妹だろ?」と彼は言う。


ジルのプレゼントの包装を解いたアユちゃんは、欲しかった香水だー、と喜んでいた。



「どうでも良いけどみんな、腹減らないの?」


ビール片手のマサくんの言葉で、今更空腹を思い出した。


それからピザをデリバリーすることになり、ついでとばかりにマサくんの彼女も来た。


看護学校に通うという彼女は、めぐちゃんといい、やっぱり可愛かった。


アユちゃんも彼氏を呼びたいと言い出したが、すかさず兄ふたりがキレていた。


どうやら妹が可愛くて仕方がないと言った様子だ。


それからあたしは、お姉様、お姉様、と呼ばれ、アユちゃんになつかれた。


マサくんはあたしより年上なのに愛里さん、と敬語で、ジルはそんなあたしをレナと呼ぶ。


めぐちゃんだけが、そんな光景に首を傾げていた。



「お前、アユに気に入られたな。」


「そのようだね。」


「俺らやっぱ男だしさ、女のことはわかんねぇから。
お前には心開いたみたいだし、仲良くしてやってくれるとありがたいんだけどな?」


そう言いながら、ジルは思い出したように笑っていた。


きっとアユちゃんのためであり、あたしのためでもあるのだと思う。

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