月影
めぐちゃんは明日も学校があるらしく、マサくんが送って帰って行った。


アユちゃんは疲れもあるのだろう、眠ってしまっている。


で、コイツ俺より飲むよ、とジルに言わせただけあって、マサくんはまだ飲んでいた。



「やっと静かになったよね。」


「女子高生のテンションはすげぇなぁ、相変わらず。」


「兄貴、おっさんじゃん。」


ふたりはアユちゃんの寝顔を見ながら、まるで父親のようだ。


ジルはトイレに立ち、マサくんはあたしに声を潜めた。



「でも、安心したよ。
兄貴は俺らのこと考えて、何でもかんでも我慢してくれてたから。」


「…そう、なの?」


「うん、自分のこと話さない人だしね。
けど、彼女連れてくるとは思わなかったし、それ以前にそんなの居るとも思わなかった。」


いや、今日は本当に偶然だったのだが。



「だからふつつかな兄ですが、よろしくお願いします。」


「いや、こちらこそ、デス。」


何だかよくわかんないが、ぺこぺこと頭を下げあっていると、何やってんだよ、とジルが戻ってきた。



「兄貴は早く結婚するべきだよ。」


その言葉には、さすがのあたしも咳き込んだ。


ジルはこちらを一瞥し、汚ぇなぁ、と言いながら、苦笑いを浮かべていた。



「いや、レナんち厳しいしなぁ。
つーかコイツはモテるらしいから、俺のこと貰ってくれるとも限らないし?」


何言ってんだか、だ。


思わず口元を引き攣らせると、でもさ、と彼は言う。

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