月影
「お前、俺の弟ならしみったれた顔してんなよ。
そんなんじゃ俺も、レナの心配してる場合じゃなくなるしさぁ。」


ジルは優しく笑っていた。


マサくんもそんな言葉で小さく笑う。



「じゃあ、また来てよ。
アユもきっと喜ぶから。」


「あ、婚約解消忘れてた。」


「そしたらアユは、ますます彼氏一筋になるだろうね。」


「おい、そりゃダメだろ。」


笑いながら見送られ、あたし達は車へと乗り込んだ。


ジルは煙草に火をつけながら、でもどこか清々しそうだ。



「結婚だって。
うちの弟クンは気が早ぇんだよ、何でもかんでも。」


「よろしくお願いしますって言われちゃったよ、あたし。」


「俺、まだプロポーズもしてねぇのになぁ。」


平然とそんなことを言うジルに、驚いてしまうが。



「でも実際、それに越したことはねぇけど、やっぱ難しいじゃん?
俺多分お前の親に嫌われてるし、うちの親もダメダメだし。」


それにさ、と彼はため息を吐いた。



「俺やっぱ、アユが高校卒業するまでは見届けてやりてぇし。
何より俺も仕事ちゃんとしなきゃじゃん?」


珍しくジルは、よく喋る。


てゆーか、あたしの気持ちを聞こうよ、って感じなのだが。



「お前、少なくともあと一年は我慢しなきゃだけど、それで良い?」

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