月影
おかしすぎて、思わず噴き出したように笑ってしまう。


それってプロポーズなんだかどうなんだかもわかんないけど、でも、ジルは真剣そうだった。


アユちゃんの学費は親が出しているらしいが、それだけのことしかしていないらしい。


だからきっと、ジルはこれらもマサくんを助けてあげたいのだと思う。


とても彼らしくて、あたしはきっと、そういうジルが好きなのだろう。



「良いんじゃないかな、それで。」


「何か適当だなぁ、それ。
俺、珍しく普通にお前のこと口説いてんだけどね?」


「テレてんの?」


「あぁ、そんな感じかも。」


だけどもジルは、表情ひとつ変えることはない。



「俺はさ、この通りろくでもないわけだし、女とまともに付き合ったことねぇから、多分お前は苦労すると思うんだけどね?
でも困ったことに、俺、お前のことが一番大事なんだわ。」


「…何でそこで困るのよ。」


そうだった、と彼は笑う。


あたしは少々呆れてしまい、でも嬉しくて、「馬鹿じゃん。」と言ってやった。


恐ろしくスローだが、あたし達は自分たちのペースを保ちながら、進んでいる。


どちらかに頼ろうとは思わないけど、ふと疲れて立ち止まった時には、隣に相手がちゃんと居ることに気付くのだ。


だから別に一緒に暮らすという発想もなく、でも、多分ずっと一緒に居るのだろうと思う。

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