月影
「ねぇ、まだ痛いの?」


「腹?」


「違う、背中。」


「あぁ、もう大丈夫。」


ジルの左腕には、今も真っ黒なエロい形のカマのようなトライバルがある。


レーザーで消すことも出来るらしいが、それをする気はないらしい。


代わりにそれに対するように、今度は肩口から肩甲骨にかけて、羽のような模様を更に増やしていた。


ふたつが折り重なるような形で、格好良いけど、余計にイカつい感じになり、ちょっと前に完成したのだ。


元々は、花穂サンやギンちゃんの人生を背負い、悔んだ記憶を忘れないようにと彫ったもの。


もう終わったことだからと言って過去のことを消すような男ではない。



「何で刺青増やしたの?」


「何でだと思う?」


「わかんないから聞いてんのー。」


ジルは笑った。


笑って、そして「これからはお前の人生でも背負ってやろうかと思って。」と言う。



「俺、やっぱ自分の人生に好きに生きるとかよくわかんねぇしさ。
それにお前とか苦しめたのも忘れちゃダメだし、そういうの全部の想いを込めて、みたいな。」


さすがに、少し照れた。


例えばあたし達は、未だに好みも違えばお揃いなんてしないし、手首にももう、鎖はない。


それでも、ジルの体に刻まれたものがあれば、自然と大丈夫だと思えてくるから不思議だ。


そこに、あたしの居場所があるということ。

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