月影
人は涙を流すと精神が幾分安定するのだと、どこかで聞いた気がする。


煙草を吸うジルの体の上に頭を乗せていると、まるで猫を撫でるように彼の手の平は、あたしの頭を撫で続けていた。


ニャーとか言ってやろうかとも思ったけど、でも、馬鹿にされそうだからそれだけはやめておいた。



「…もう帰るの?」


「帰ってほしくない?」


こういう聞き方は嫌がらせだな、と思ったけど、あたしは素直に頷いた。


別に体だけで繋がってても良いし、それがあたしの役目なんだろうけど、帰られたら次はいつ会いに来てくれるのかもわからないのだし。


だからこそ、もう少しで良いから、と思ってしまう。



「ビール、あんだろ?」


モチロンだよ、とあたしは笑った。


多分、いつもの如く馬鹿みたいな顔だったろうけど。


それから冷蔵庫から二人分のビールを取り出し、乾杯した。


もう、明日二日酔いになっちゃうかもしれない、なんてこと気にしてられなかったし、単純にあたし、お酒は嫌いじゃないのだろう。


ちょこちょこ会話はしたけれど、ジルは込み入ったことなんか聞いて来ないし、あたしも聞かないし、みたいな感じ。


多分、聞いたってはぐらかされるのだろうしね。

< 44 / 403 >

この作品をシェア

pagetop