月影
「あ、霧島シュウ?
探してるけど、手がかりゼロだわ。」


「…そう。」


「つか、捜索願いとか出した方が早くない?」


「出してる、らしいよ。
でも、自分から出て行ったなら探すの難しいだろう、って。」


らしいよ、と言ったのは多分、シュウと近しい間柄だと思われたくなかったからだろう。


そして詳しいことを言えば、あたしのことだって探られそうで、それも怖かったんだと思う。



「自分から出て行ったんだったら、事件性ねぇじゃん。
なら別に問題ねぇし、18だったらひとりでも適当にフラフラやっていけるよ。」


「…それじゃ、ダメなの…」


「何がダメなんだよ?
つか、自分から出て行ったヤツを探し出したって、戻ってくるわけねぇだろ?」


「でもダメなの!」


そう、思わず声を荒げてしまえば、彼はうんざりした様子で肩をすくめた。


まぁ、それもそうだろう、だって詳しいことは何ひとつ教えないで、名前と年と顔写真だけで探してくれ、と頼んでいるのだから。



「お前にとって、そいつって何?」


「憎んでるの。
それだけしか言えない。」


やっぱりジルは、呆れたような顔をしていた。


口の中にはビールの苦味が広がっていて、アルコールの所為で心臓の鼓動はいつもより早い。



「…お願いだから、早く見つけてよっ…!」


シュウが死体として見つかったら、あたしの感情の行き場がなくなる。


アイツのために費やしてきたこの一年半も、ううん、今までの我慢全てが無駄になってしまうのだから。


だからこそ、生きてるシュウを見つけ出して、殴り飛ばして罵ってやりたいのだ。


アンタの所為であたしの人生めちゃくちゃになったんだよ、って。

< 45 / 403 >

この作品をシェア

pagetop