月影
悪ふざけのようにはしゃぐあたしをジルは嫌うけれど、見ていると、ジルも随分あたしの前での顔と違うな、と思った。


何て言うか、普通に喋るし適当に笑うし、遊び慣れたニイチャン風なのだ。


多分これが、ジルの表の顔だろう。


こんなヤツがセックスの最中に首絞めるなんて、きっと誰も思わない。



「お前、明日休みだよな?」


「うん。」


「じゃあ今日、俺んち来る?」


耳に触れたそんな台詞に、驚くことしか出来なかった。


彼はいつも、こんな時ばかりあたしの耳元に声を潜ませ、右耳だけが、嫌に熱を持っているのが分かる。


まるで秘め事のような会話で、それが他の子たちに見せる顔と違っているからか、またあたしは「…うん。」と小さく頷いた。


ふと、そんな中、目が合ったギンちゃんはあたし達を見て目を細めるようにして口元を緩める。


優しい顔してるように見えるけど、彼もまた、何を考えているのか謎な人。


てか、基本的にジルとギンちゃんの会話ってのはふたりで小声で話す事が多いし、だからこそ、彼らの関係性は今も謎のままなのだ。


単にギンちゃんは、葵に付き合ってホストクラブに行くあたしのように、ジルの付き添いってだけなのかもしれないが。



「今日、ラストまで居てやるよ。」


「ホントに?」


「だって、迎えに来るのダルいし。」


きっと、人が居なかったらあたしは、ジルに抱き付いていたと思う。


今日の彼は人前だからか妙に優しいことばっか言ってる気がして、少しばかり恥ずかしくなってしまうんだけど。


元々作りモノのようなあたし達は、もう、何が本当なのかはわかんなかったけど、でも、抱き合ってる時だけがリアルだと思えるのだ。


あたしはジルに、抱かれていたい。

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