月影
ギンちゃんの携帯は、結構引っ切り無しに鳴っているようだった。


その度に席を立つことだし、多分、女の子からなんだろうとは思うけど。


ジルはそんな彼の様子を、まるで見ないようにしているみたいだった。



「…ギンちゃん、大丈夫なの?」


「アイツは女の相手すんのが仕事だから。
それに、アイツなりに家に帰りたくねぇ理由があんだよ。」


ギンちゃんが居ない席でジルに問うたけれど、彼はそう言って肩をすくめるだけ。


だから俺にひっついて来てんだ、と付け加える顔は、やはりあたしにはわからない秘密でもあるのだろう。



「アイツがそんな風になったの、俺の所為だからさ。」


お酒の所為なのか、少しばかりジルの本音を聞いた気がした。


とてもとても悲しそうな顔で、あたしは何と言って良いのかのわからず、顔を俯かせてしまう。



「こーら、ジル。
お前今、俺の悪口言っとったやろう?」


弾かれたように顔を上げてみれば、ニィッと笑ったギンちゃんの姿。


無視を決め込むようにジルはアルコールを口に含み、あたしは曖昧にしか笑えない。



「違うよ、ギンちゃん忙しそうだね、って言ってたの。」


「俺はジルと違うて時間の自由きくけど、その代わり年中無休みたいなモンやしね。
まぁ、お仕事やし、大人やからしゃーないわ。」


そう、子供っぽい顔しておどけたように言うのはいつものことで、ジルとは改めて正反対のようだと思った。


ギンちゃんはいつもヤンチャな少年みたいな面を持ち合わせていて、一見すれば悩みなんてなさそうな見た目。


だからこそ、彼にもジルのように裏の顔があるのだと思うと、少し怖くもなってしまう。



「それよりレナちゃん!
今日はジルくんの奢りやし、もっかい乾杯しようや!」


何だかこれじゃあまるで、ギンちゃんの方があたしに会いに来たようにも見える。


ジルはそんな姿を一瞥して、でもすぐに煙草を咥えてしまい、「好きにしろよ。」と、ため息のようにそれを吐き出した。

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