月影
「今日、ホントは何で来たの?」


「ムカつく気分だった、って言わなかったっけ?
ただ金使いたかっただけ。」


「でも、あたしにお金使ったって何の得にもならないよ?
それに、お金入ったのに使うなんて、勿体ないよ。」


「それは、お前が口出すこと?」


こちらを一瞥した冷たい瞳に、あたしは思わず言葉を飲み込んだ。


それは多分、仕事に繋がる話だったのだろう、やはりあたしに聞く権利はないらしい。


いや、あたしがその話に触れることを許さないとでも言ってるような、そんな感じ。


冷たい瞳は、いつもどこか悲しそうだ。



「顔色、悪いね。」


「…そう?」


「そう。」


「たまにさ、何もかもが嫌になる瞬間があんだよ。」


ポツリと頼りない言葉が落とされて、あたしは窓の外を見つめた。


きっとそれは、大金を手に入れたことと関係しているのだろうけど、でも、口を出す権利なんかないと言われた以上、何も言えなかったのだ。


ただ、本当に死んでしまいそうで、早くあたためてあげなきゃ可哀想だと思った。


それは、震えている捨てられた子猫を見捨てることが出来ないのと同じような感覚なのかもしれないけれど。


別に何人女が居て、どんな名前で何の仕事してたって良いけど、願わくば、吐き出すのはあたしの前でだけにして欲しいな、と思った。


縛らないから、代わりにそんな我が儘だけは、聞いてくれると嬉しいのだけれど。



「ここ、俺のマンション。」

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