月影
ジルに縋るように、あたしは快楽と痛みの中で泣いていた。


いや、苦しさもあるけど、ジル自身が痛々しくも見えたからだろう。


きっと、泣けない自分の代わりにあたしに涙を流させ、優しくするのは多分、ジル自身が優しくされたいから。


彼は多分、あたしを抱きながら、自分自身を抱いているのだろう。


好きとも嫌いとも言わないのは、あたしが自分自身のようだから。


それでも別の人間だから、言葉に出来ないものをあたしの中に吐き出すのだろう。



「レナ。」


何でそんなのを受け入れているのかな、と思った。


でも、あたしもまた、ジルに抱かれることで癒されているのだろう。


あたししか知らないジルの顔があるように、あたしもまた、ジルしか知らないあたしの顔があるのだから。


涙を流せる場所は、こんなセックスの中にしかないの。


辛うじて生きてるのだと知る唯一の方法で、そんなギリギリが、少しばかり悲しくもあった。


悲鳴にも似たあたしの嬌声は、すっかりあたたまった部屋を舞う。


本気で抵抗なんて、しないのに。


それでもジルは、犯すようにあたしを抱くのだ。


自分に似たものを壊してやりたいと思いながら、でも、壊せない中で苦しくなる。


自分で自分の首を絞めるような行為は、きっと滑稽なのだろう。


それでもあたし達は、こんな方法以外にない。


過去も、未来も、この一瞬でさえも、真っ黒だった。

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