月影
「普通、怖がるんじゃねぇの?」


「じゃああたし、普通じゃないんじゃない?」


「…変な女。」


「ヤる気失くした?」


「まさか、その逆。」


「じゃあ、アンタも十分変な男だね。」


男の車は高級車で、金掛けていじってるな、って印象だった。


てゆーか、職業病かもしれないけど、お金持ってる男ってのは一目見てわかるし、おまけにこの男からは、怪しい香りもプンプンする。


妙に女慣れしてるし、遊びは遊びと割り切るタイプだろうと分析したからこそ、怖いとは思わなかったのだ。



「お前、名前は?」


「レナだよ。
でも、別に本名じゃないから適当に呼んで。」


「…本名は?」


「教えるわけないでしょ。」


「何だ、残念。」


そう、全然残念そうじゃない顔で肩をすくめられ、あたしのことなんかまるで興味のない様子が見て取れる。


まぁ、興味あるとか言われても、それはそれで困るけど。



「アンタさぁ、ジルって呼ばれてたじゃん?
もしかしてハーフだったりするの?」


「馬鹿言えよ、俺は生粋の日本人。
みんなが勝手にそう呼んで、知らない間に定着してただけ。」


「へぇ、じゃあ本名は?」


「教えませーん。」


そう、とだけ返した。


こんな会話はお互いに無意味だってわかってるけど、それでもホテルまでの間の繋ぎようなものだ。

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