月影
犯すようなセックスのあと、いつも彼は横たわるあたしの頭を撫でながら、煙草の煙をくゆらせる。


これはきっと、幸せと呼べるようなものではないのだろう。


それでも救われた気がしたから、あたしにはそれだけで十分だと思った。


ジルもまた、散々吐き出して、また翌日を生きるのだろうし。



「お前、何か欲しいモンある?」


突然、そんなことを聞かれてしまった。


まだお金を使いたい気分が継続中なのか、それとも単に、首を絞めたことの謝罪のつもりなのか。


それでもひとつ言えるとすれば、あたしには物欲がない、ってことだ。


キャバ嬢のレナを着飾る物は欲しいけれど、そんなのジルに貰いたくないし、所詮は偽物が輝くだけ。



「キス、して欲しい。」


言うと、安あがりな女だな、と彼は小さく笑った。


決して褒められたような台詞ではないはずなのに、ジルが笑ったからあたしも笑った。


笑ったら、唇に彼のそれが触れて、微かに煙草の味がした気がした。


また絡まって、今度はあたしから求めたけれど、別に怒られたりはしなかった。


本当は優しい人なんだと、あたしだけが知ってるような気分にさせられる。



「お前はまるでオス猫だな。」


「…オス?」


「そう。
メス猫ってのは、実は気位が高いんだよ。
それに比べてオス猫ってのは、お前みたいに甘えたなんだ。」


じゃあジルはメス猫だね、と言うと、彼はまた笑った。


ジルの携帯は今日も何度か鳴っていて、無視することもなくそれに出た彼は、相変わらず電話口の向こうに女の影を匂わせる。


でも、別にあたしを帰らせようとはしないし、色恋で営業しているホストのようで、葵と聖夜クンはこんな感じなのかな、なんてことが頭をよぎった。


まぁ、聖夜クンはマクラなんてしない人だけど。

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