月影
子供で言うところのおやつの時間だ、ランチタイムはとうに過ぎていて、洋食屋は嫌に静けさが保たれていた。


陽の光に鬱陶しそうに眉を寄せながら、向かい合う彼は窓の外へと視線を投げる。


たまに、この人はやっぱり幽霊とか吸血鬼の類なんじゃなかろうか、と思っていたけれど、

やはり太陽の光を浴びて歩いていると、普通の人間だったんだな、なんて馬鹿げたことを思ってしまう。


夜を生きているようなジルの、昼間の顔。



「何か変だよねぇ、あたし達が一緒に昼間の街を歩くのって。」


「まぁ、見た感じ爽やかな印象はねぇわな。」


お前の所為で、と付け加えたジルに、あたしは口を尖らせた。


まさか、ふたりで一緒に街に来ることになろうとは。


あたし達は多分、揃って胡散臭いのだと思うし、それを否定する気もない。


でも、どこか賑わっている場所を避ける辺り、お互い何かを気にしているのだろうとは思うけど。



「やっぱ、せめて夕方から出歩くべきだったのかなぁ?」


だってジルは、可哀想なくらいに太陽が嫌いオーラが出ているのだから。


幽霊とか吸血鬼ではないにしても、それの末裔とかかも、と思ってしまうくらい、昼の街を苦手としている顔してる。


きっと、日陰ばかり歩いてるから寒がりになるのだろう、とも思った。


あたしは多分、ジルに甘いのだ。



「お待たせしました。」


コトッと目の前に、二人分の料理が運ばれてきた。


普通に食事をするジルも、店員さんに注文するジルも、やっぱりどこか、違和感を覚えてしまう。


いや、あたしが気にしすぎなだけなのかもしれないけれど。

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