月影
結局、居心地が悪いままに洋食屋を出て、そのまま高級ブティック街へと連れて行かれた。


で、買いたい物があるのだと言った彼に連れられ、ブルガリのお店に入ったのだ。


ジルはショーケースを眺めてて、あたしは店内を一通り歩いて見て回る感じ。


例えば何かを一緒に選んだりもしないし、ましてやどちらが良いか、なんて相談することもない。


ジルは黒レザーのキーケースを選び、ついでとばかりにあたしが「可愛いね。」と言ったB-zero1のホワイトゴールドブレスをお買い上げ。


別にねだったとかじゃないけど、彼が当然のように買ったことには驚かずには居られなかった。


多分、コンビニ行ってジュース買うついでに煙草買った、みたいな感覚なんだろうけど、それにしても桁が違うと、色んな意味で思ってしまう。



「…ありが、と。」


「ん、良いよ別に。」


どうでも良い、と言った感じに聞こえる。


あたし達は本質的な部分では似てるけど、それ以外の嗜好や何かは、まるで違うのだ。


その部分を擦り合わせてまで何かをお揃いにしたりもしないし、そんなことも望んでいない。


深い部分は同じなだけで、本当に別の人間、ってことだろうけど。


だから、例えジルが自らブレスをあたしの左手首につけてくれたとしても、彼に繋がれて、縛られているという気は全くしなかった。


ただ、何となく嬉しかったことだけは確かだけれど。



「似合ってんじゃん。」


「…そ?」


「大事にしろよ?」


あたしは多分、それなりに大事にされているのだろうとも思う。


左手首ついたブレスを眺めながら少しばかり照れていると、そんなまんざらでもなさそうな言葉が落ちてきた。

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