月影
「珍しいなぁ、お前が誰かと一緒に行動してるなんて。」


しかも、女の子だし、と油の滲んだ作業着姿の男は豪快に笑う。


冬の夜はすぐに訪れ、辺りは真っ暗になった中で、ジルはついでとばかりに今度は馴染みなのだろう車屋へとあたしを連れ立った。


一緒に車を降り、軽く会釈はしたのだけれど、彼はあたしを誰かに紹介する気はなさそうだ。


ジルと恰幅の良いオッチャンは車を眺めて二人で話し込んでしまい、どうしたものかなぁ、とあたしは、やっぱり適当に歩き回っていた。


油臭いなぁとか、やっぱ車好きなんだなぁとか、それにしてもコレは一体何をする道具なのかなぁ、とか。


ハッキリ言って楽しいとは言えないし、ぶっちゃけつまんないとも思うけど、ジルは珍しく普通の男の顔してオッチャンと話をしていたのだ。


何て言うか、何にも執着しない彼が不意に見せた横顔が、嫌だとは思わなかったからなのかもしれないけれど。



「お前、フラフラしてると迷子になるぞ。」


「ならないよ。」


一周して戻って来てみれば、ジルは自分が来ていたダウンジャケットを脱ぎ、あたしへと差し出した。


着てろよ、という意味なのはわかったが、それにしても驚くばかりだ。



「寒がりのくせに格好つけるじゃん。」


でもありがとう、と言ってあたしはそれを受け取った。


ジルの香りがして、優しさをくれてる気がして、あたしはまた少し笑ってしまう。



「ねぇ、今から何やるの?」


「ローテーション。」


「…何それ?」


「タイヤの組み換えだよ。」


「水陸両用にでもなるの?」


「馬鹿か、お前は。
車高落としてるとタイヤが片減りするから、内側と外側を…」


「わかんないから良いや。」


あっそ、と彼は煙草を咥えた。


珍しく饒舌だったし、やっぱり語らせてあげてれば面白かったのだろうか、なんてことを今更思う。

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