月影
ホテルの部屋に入ってみても、シャンデリアに灯され、店の中とあまり変わらない印象を持った。


ただ、違ってるところ言えば、ここはセックスする場所で、それを表すように真ん中に、大きなベッドが置かれている。



「さっさと終わらせてよ。」


コートを脱ぎ捨て、そうあたしは、それへと体を投げた。


ジルはそんなあたしを一瞥し、煙草の煙に舌打ちを混じらせ、こちらに向けるのだ。



「お前、ムカつく女だな。」


「…じゃあ何で助けたの?」


「誰のことも怖がってないからだよ。
別に死んだって良い、って目してる。」


それはアンタもだろ、って思った。


あたしはただ、死なないから生きてるだけで、多分、コイツだって似たようなものなのだろう。


けど、そんなことは何の関係もない。



「くだらない会話がしたいんなら、他の女とでもしてなよ。
ヤらないんならあたし、帰るから。」


ひとつため息を落としあたしは、体を起こして髪の毛をかき上げた。


普通の男ならこんな状況、喜んでサカってくるだろうに、なんて思ってみたけど、でも、コイツに普通なんて求めるのはきっと間違ってるのだろうし。



「帰らせると、思う?」


刹那、顔を向けようとするより先にベッドへと押し倒され、スプリングが僅かに軋んだ。


上から落とされているのはひどく冷たい瞳で、あたしの首筋をなぞるのはそれと同じくらいに冷たい指先。


一撫でされ、そして大きな手の平はあたしの首を鷲掴み、力を込められると、思わず苦痛に顔を歪めてしまう。


ジルの顔は無表情そのもので、ゆっくりと離れた手の平に、生理的に咳き込めば、彼はまた小さく口元を上げた。



「脱げよ、レナ。」

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