月影
拓真には悪いけど、あたしはホストって人種が嫌いだ。


女を食い物にしてる感じだし、とりあえずうるさいし、自分と似たようなことやってるからか、やはりどこか嫌悪の対象でもある。



「聖夜クンってさぁ、葵と本気で付き合ってんの?」


「本気だと思うよ。
色恋だったら店に呼びまくるっしょ。」


「まぁ、そうだよねぇ。」


「腑に落ちない、って?」


「そんなことはないけど。
信頼しあってなきゃホストなんかとは付き合えないだろうなぁ、って思って。」


「おいおい。
今、普通に悪口入ってたじゃん!」


それでも拓真は、ケラケラと笑うだけだった。


向かい合う彼は全身クロムハーツで固めているものの、ニットキャップの所為もあるのだろう、私服は一見してホストのようには見えない感じ。


柔らかい顔でオラオラ感がないからだろうか、だからこそ、普通に話せるのかもしれない。



「ホストってさぁ、楽しいの?」


「良心が顔を出すと辛い時もあるよ。
やっぱさ、騙してる部分がないわけじゃないし。」


ホストも人間だからね、と彼は言った。


不意にジルの顔が浮かび、あたしはビールを流し込むようにしてそれを振り払う。



「それでもさ、続けてるんでしょ?」


「まぁ、そういう仕事でもある、って割り切ってるからね。
それに俺、酒と女の子が大好きだから。」


でも、そう言った顔に嫌味はない。


もしかしたらもっと別の理由もあるのかもしれないけれど、拓真は決してそれをあたしに見せようとはしなかった。


お互い、源氏名で呼び合ってるから結局は、どこかプライベートとは言い切れない部分もあるのだろう。

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