月影
「まぁ、今日は息抜きって感じ?」


「あたしとご飯食べて息抜きになんの?」


「なるから電話したんじゃん。」


「変なのー。」


本当に変な男だな、と思った。


こんなつまんないだけの女と食事することの、どこが息抜きになると言うのだろう。



「レナは息抜きにならないの?」


「なるよー、ペットショップに居る気分ー。」


「じゃあ、俺って癒し系なんだー?」


「…何でそうなるのよ、馬鹿。」


わざとらしくあたしの口調を真似られ、そう思わず眉を寄せてしまうのだけれど。


やっぱり拓真はあははっ、と笑ってて、あたしは困ったなぁ、と宙を仰いだ。


コイツは基本、ポジティブな考え方をしてるし、きっと大抵のことは笑って受け流すタイプなんだろう。


あたしやジルとは大違いだな、と思ってしまう。



「でもさ、拓真見てて羨ましくなることあるよ。
元気だなぁ、とかさ。」


「じゃあ、俺とレナを足して2で割れば良いんじゃん。
つか、俺とレナでプラマイ・ゼロだ!」


「意味わかんなーい。」


でも、そんな他愛もない言葉で笑っている自分が居た。


やっぱりどこか昔付き合ってた男を思わせる感じだし、こういう部分に励まされる。


ジルとあたしは、きっと足しても何にもなりはしないだろうから。



「あたし多分、アンタがホストじゃなきゃ好きになってたよ。」


「でも、ホストじゃなきゃ出会わなかったよ?」


スマイル、と言う表現しか出来ない顔だった。


本気なのかどうなのかさえもわかんなくて、あたしは受け流すように残り少ないビールを流し込んだ。


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