月影
「レナー!
2軒目行こうよー!」


「まだ飲ませんの?」


「じゃあカラオケー!」


「…カラオケ、ねぇ。」


「俺とカラオケ行くと元気になれるって評判ですよー。」


困ったヤツだ、と肩をすくめた。


酔っ払ってるのか拓真はさらにテンションあがってる感じだだけど、何にも言ってないのに笑顔をくれる。


普通の男って感じだし、やっぱり嫌いにはなれないな、と思った。



「じゃあ、この店拓真の奢りなら行ってあげるー。」


「おいおい。
誘ってきたのレナじゃんかぁ!」


「あたしも暇、って言っただけじゃん。
てか、連絡してきたのだって拓真だし。」


しょうがないねぇ、と彼は言った。


そんな言葉にまた、あたしは大爆笑だった。


きっと、こんな何でもない関係に癒されていたのだろう。


男友達ってのは、女友達には埋められないものを埋めてくれることは確かだし、それは否定出来ない。


セックスで満たされるところもあるけど、でも、セフレのジルとの行為でも埋まらないものは、あたしの中に確実に存在しているんだ。


そんなの全部をツギハギして、やっとあたしは自分を保てるのだろう。



「俺のミスチルは泣けるからな!」


「笑える、とかじゃないの?」


カラオケに行く道中、ジルを見た。


向こうの通りを女の人と歩いてたので、あたしは無意識のうちに拓真に笑顔を向けていた。


それが彼女なのか、知り合いなのか、はたまた親戚とかそんなものなのかは、あたしにはわからない。


もしかしたら単に見間違いで人違いだったのかもしれないけれど、あの人はあたしに見せない顔で笑っていたんだ。


拓真のミスチルは、何故だか泣けた。

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