月影
プレゼントが欲しい、とあたしは言った。


困ったように肩をすくめながら、ジルはキスをしてくれた。


それだけで嬉しかったから、彼のまたひとつ増えていたアクセのことは気にしなかった。


だってあたしが今着ている服は、お客に買ってもらったものなのだから。


女友達にも男友達にも埋められない場所は、ジルでしか満たされないことを知っている。



「もうすぐ今年も終わっちゃうんだね。」


「やめろよ、クリスマスにしみったれた話はさぁ。」


もう28日だよ、と言ってやりたかったけど、でも、言わずにあたしは笑ってた。


唯一のクリスマスムードを醸し出していたシャンメリーの包装も解いてしまい、聖なる夜なんて欠片もないような、いつも通りのあたしの部屋。


ジルもまた、キリスト如きの誕生日に踊らされすぎだ。



「つか、シャンメリーってジュースだな。」


「自分が買ってきたんじゃんか。」


「レナ、ビール。」


「…結局それだよねぇ。」


それでもジルが、これをクリスマスか、もしくはそれ以前に用意していたのだろうとは思う。


例え、誰かと飲むはずだったものだとしても、ちゃんとあたしのことを忘れてなかったことが嬉しかったのだ。


ジルは気紛れだけど、約束は必ず守ってくれる男。


結局は、28日に遅ればせながら迎えたあたし達のクリスマスは、ビールで乾杯し直す結果となってしまった。


雰囲気だけでも、とデリバリーでオードブルを注文したけれど、それもまた、酒のつまみのように消えていく。


満ちているときほど、人はそれに気付かない。


逆に満たされないときほどこんな一瞬を思い出すのだから、嫌になるよ。

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