月影
1月5日、仕事終わりにジルに呼び出され、あたしは彼の部屋に向かった。


相変わらずあの人は、「今日が俺らの元日だ。」と言っていて、ジルが用意していたお寿司の詰め合わせで乾杯した。


寒々しい部屋で彼を抱き締めてあげたけれど、どこか寂しそうな瞳は新しく迎えた年も変わることはない。


酔っ払って、また犯すように抱かれ、あたしはいつも通り、彼のために涙を流してあげたのだ。


ジルはきっと、何かを抱えてる。


それはわかっていたけれど、それ以上はわからなかった。


だから、それでジルが救われるのなら、あたしにもそれだけで良かったのだ。


ジルがあたしの埋められない場所を満たしてくれるように、あたしもあの人の明日を紡いであげたかった。


生きたって、良いことがあるとも限らないのに。


それが、生きる気もないくせに、死のうとはしないジルのためになるのかは、あたしにはわからない。


ただ、一瞬だけでもジルの痛みを取り除いてあげたかっただけなのだ。


まるで延命治療のようで、また痛々しく思わされるのだけれど。


ジルが死にたいんだと漏らしたとしたら、その時のあたしはどうするだろう。


どうしてあげることで、ジルは救われるのだろう。


プレゼントのキスは、やっぱりこの日も優しいものだった。

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