月影
「あ、そういやお前に土産渡してなかったよな?」


「…お土産?」


首を傾けると、彼は待ってろ、と言ってクローゼットを開けた。


後ろから覗き込むと、ビニールに包まれた大量のブランドバッグや財布、装飾小物などが無造作に入れられている。



「パチだけど、気に入ったのあったらひとつやるよ。」


つまりはこれ全部、偽ブランドらしい。


どういうことなのかわからずに余計に眉を寄せると、彼は咥えていた煙草の煙を吐き出した。



「この前、日帰りでちょっと韓国まで行ってきてさ。」


「韓国?!」


「これ、スーパーコピーだから、素人目には一見してもわかんねぇよ。
裏ルートで買い付けに行ったんだけど、あとはこっちで流すだけだから、その前にお前、好きなのひとつ持って行け。」


そしてパチで良いならだけど、と彼は、平然と付け加えた。


何かもう、当然のようにジルは言うが、突っ込みどころは満載だ。


一瞬こめかみに痛みさえ覚えたが、あたしは「…いらないや。」とだけ返した。



「そっか。」


ジルもまた、それなら良いけど、とでも言った具合に返し、すぐにクローゼットの扉は閉められた。


確かに、ネットオークションなどでも偽ブランドは当たり前に目にするけれど、まさか流す側の人間がこんなに近くに居ようとは。


やっぱりジルの仕事は、ロクなものではないらしい。



「ギンちゃんと一緒に行ったの?」


「別に俺、いっつもアイツと一緒じゃねぇから。
アイツの分は、冷蔵庫の中。」


そう言われたので冷蔵庫を開けてみると、今度は大量のキムチの入れ物に、さすがに笑ってしまった。


この量じゃ、軽く嫌がらせだろう。



「…怒られるよ?」


「怒らせるために買ったんだ。」


今度は声を上げて笑ってしまった。


結局のところ、ふたりは何だかんだで仲が良いのだろう。

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