月影
仕事前に、用もないのにコンビニに立ち寄った時のこと、買い物を終えて出てくる彼と目が合い、思わずあたしは曖昧に笑ってしまう。


横には女のあたしが見ても乳のデカい女性を引き連れていて、少しばかり嫌味のように感じてしまうのだが。



「レナちゃんやん!」


「…ギン、ちゃん…」


彼、ギンちゃんは隣の彼女に先に車に戻るように言い、こちらへと笑顔を向けてきた。


無視することは出来ないと思ったけど、でも、話すほどのこともないってゆーか、正直この人とふたりで何を話せと言うのだろう。



「ジルとは仲良くやってんやろ?」


「…まぁ、適度に。」


「そうか。
それよりレナちゃん、アイツに飼われてるんやってなぁ?」


随分ストレートに聞いてくるな、と思った。


曖昧にしか笑えずに居ると、彼は考えるように一度視線を宙に投げ、それをあたしへと戻すと、今度は異常なまでに冷たくなっている瞳に驚いた。



「本気なん?」


ジルに、ということだろうけど。


初めて見たギンちゃんの威圧的な瞳に、あたしは無意識のうちに生唾を飲み込んでしまうが、何も言えないまま。



「ジルとは遊びで終わらせとき。」


そんなことは、言われるまでもない。


第一、いくらギンちゃんとはいえ、あたし達のことにまで口を出されたくはない。



「…関係、ありますか?」


「あんな、俺はレナちゃんのことなんか正直どうでもえぇねん。
んでも、お前らの関係が上にバレたら、アイツがどうかるかわからへん。」


やから、深くは関わらん方がえぇで、と彼は言う。


本当に恐ろしいほどの瞳で、コンビニの前だと言うのに張りつめた空気に支配されている気がした。

< 80 / 403 >

この作品をシェア

pagetop