月影
「アイツは俺の大事な親友やねん。
別にプライベートやし何してようと関係あらへんけど、レナちゃん自身も傷つくことになんで?」


つまりは、俺の大事な親友を危険に晒すな、ということか。


あたしとあの人がセックスしてるだけで危険になるとか、本気で意味がわからない。



「レナちゃん、俺らの仕事知ってるん?」


「…知りません、けど。」


「詮索、せん方が身の為やよ。」


これがあの、いつも子供みたいな顔をしていた人と、本当に同一人物なのだろうか。


おずおずと言うあたしに、煙草を咥えた彼はハッと笑いながら、「それから、忠告しといたるわ。」と言う。



「アイツは誰にも本気にはならへんよ。」


「…そんな、こと…」


そんなこと、わかってるんだ。


あたしがジルの優しさに甘えているだけで、あの人には、他にも女なんてたくさん居るのだろうから。



「レナちゃんもそこまでアホちゃうやろ?
ヤるんは勝手やけど、アイツのこと縛らんといてね?」


「…あたしは別に、縛ってなんか…」


ならえぇけどね、と彼は、遮るように笑う。


まるで滑稽なあたしを嘲笑ってでもいるような瞳に、嫌悪感を抱いた。



「嶋さんは勘の良い人や。
おまけに恐ろしい人でもあんねん。」


“嶋さん”が誰かはわからなかった。


ただ、それが彼らの上に立つ人間なのだということは、何となくだけど理解した気がした。



「まぁ、気付かれんときぃよ。」


最後は優しい顔をして、ほんならね、と言った彼はあたしの横をかすめた。


無理に仲を引き裂こうという気はないが、あたし達の関係に釘を刺した形だろう。


悔しさの中で、ただ唇を噛み締めることしか出来なかった。

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