月影
「あの人とあたしの関係は、葵が思ってるようなものじゃないと思うよ。」


「けどレナ、好きなんじゃないの?」


「違うよ、全然。
似た者同士、ってだけ。」


「自分と似た人を好きになることって、悪いこと?」


「あの人を好きになることが悪いこと、だよ。」


意味分かんない、と彼女は眉を寄せた。


まぁ、そりゃそうだろうし、あたしだってもうよくわかんない。



「意味分かんないけどさ、止めた方が良いよ。
あたしは少なくともアンタの味方だからさ、なるべくなら傷つかないで欲しいんだ。」


酒の量もそうだしね、と葵は付け加える。


向かい合う彼女も、いけ好かない関西弁の男も、あたしとジルの関係を良く思ってないらしい。


そんなのあたし達自身、もう分かりきっているはずなのに。



「…恋愛、してる場合じゃないんだ。」


「それさ、前も言ってたよね?
聞き出そうとは思わないけど、レナには両立って考え方はないの?」


思わず言葉に詰まってしまう。


あたしは一体、何をどうして、どうやって生きていけば良いのだろうか。


本当のあたしは、どんな性格でどんな風に過ごしていたのかももう、思い出せないんだ。


シュウが失踪したあの日、家族ごとあたしの全ても壊れてしまったから。



「あたしがそう出来たとしても、あの男にその選択肢はないよ。」


「…どういう意味?」


「だから似た者同士、って意味。」


きっとあたしに両立は出来ないだろうし、ジルだって、仕事と恋愛を両立したりはしないだろう。


アンタがそれを避けていることくらい、あたしにだってわかるんだよ。

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