月影
偽物でも愛を感じなかったのは、きっとキスをしなかったからだろう、と思う。


ただ、ギリギリのような行為の中で、確かに“生”を感じた気がした。


ジルの体の上に頭を乗せていると、心臓の鼓動に混じり、煙草を吸う吐息が耳につく。


体中に傷痕のようなものがあり、腕のトライバルを指でなぞってみれば、鮮やかな黒だな、なんてことを思ってしまうのだが。



「ジルってさ、何で“ジル”って言うの?」


「ジルコニアの“ジル”だよ。」


「…ジルコニア?」


「そう、模造ダイヤとか言われてるヤツ。」


つまりはダイヤの偽物みたいなもので、安価で買える代物だ。


あたしの巻いた髪の毛を指の先でいじりながら、彼はそう、瞳だけを向けてきた。



「限りなく本物に近い偽物。
ジルコニアは、俺そのものなんだって。」


「…何それ。」


「ある人に言われただけ。
でも、結構気に入ってるよ。」


「意味分かんない。
ジルって幽霊ってこと?」


「幽霊ねぇ。
まぁ、それと似たようなモンだと思うけど。」


まったく、意味がわからない。


じゃああたしは、幽霊とセックスして、そんでもって幽霊と喋ってんのかよ、って。



「お前、俺が飼ってやろうか?」


突っ拍子もない台詞に、思わず目を見開くようにしてジルを見たけど、でも、彼は無表情を崩そうとはしないまま。


辛うじて殺されなかったものの、あたしは一体どうされちゃうんだろう、なんてことが頭をよぎって消えた。



「…良い、けど。」

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