月影
身も心も、もうわけわかんないくらいに寒かった。


だから、アルコールであたためたかったのかもしれない。


アンタと行きたいとこばっか増えて、そんな自分、惨め過ぎて話にならないじゃない。


誰かを好きになると、人は弱くなるんだって、聞いたことがある。



「…レナ?」


こんなに苦しくて寂しくて悲しいのに、泣けないんだよ。


拓真の心配そうな顔から目を逸らし、ごめん、と言った。



「あたしさぁ、家事超得意なんだけど、裁縫だけがダメなんだよねぇ。」


「…で?」


「だからさぁ、不器用なんだって。
高校の頃に化学の教師に言われたのー。」


何で化学教師なんだよ、と彼は笑った。


このまま酔っ払いまくって、脳みそまでドロドロになってくれれば、少しは馬鹿らしいことなんて考えなくても良いのかなぁ。


屈託なく笑ってる拓真が、少しばかり羨ましかった。



「ほら、何事も器用だとさ、逆に人生つまんないよ。」


「…でもあたしは器用なヤツに憧れる。」


「器用なヤツでも欠点はあるよ、誰でもだけど。
例えばさ、運動音痴だったり。」


「…運動しないからそれでも良い。」


「音痴だったり。」


「…じゃあカラオケ行かないだけ。」


「ひねくれ者だなぁ、レナは。」


岡ちゃんにも言われたよ、それ。


不器用な上にひねくれ者で、やっぱあたしはダメダメだ。

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