月影
ちょうどのタイミングでトイレから出てきた葵が、目を丸くしていた。


まぁ、それもそのはずだろう、あたしはその場にへたり込んだままで、青い顔して震えているのだから。


声に気付いた店長も駆けつけてきて、やはり驚いた顔をしていた。



「どうしたんだ?!」


弟が死んだかもしれない、なんてことは、当然だけど言えなかった。


代わりにふるふると首を横に振ると、「立てる?」と葵はあたしの腕を持ち上げる。



「店長、レナこのまま働かせらんないよ。」


「…そうだな。」


幸い閉店時間も近く、あたしのお客は先ほど帰ったばかりだ。


未だ脳は現実を受け入れられないけれど、さすがに自分自身、お店に立てないことくらいはわかる。



「お前、今日はもう良いから。」


病院行けよ、と店長は眉を寄せた。

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