テディベアは痛みを知らない
手首を切りつけるのが私の、日課とは言えないけど、趣味みたいなものになった。

気分はブリキの木こりに油を差してやるようなもの。

けれど、カッターの刃を手首に当てて、それを緩やかに、肉のなめらかさに沿って動かすのは、体の動きをよくするためじゃない。

傷がつけば痛む。傷は痛い。痛いと、体は信号を出す。その信号は、私の活動を阻害する。

ほら、傷は私に不自由をくれる。

その不自由は、手首の痛みとともに、ミスを私にさせてくれた。

鉛筆を握れば痛み、ノートを取るのが遅くなった。

スポーツでボールを投げようとすれば、痛みばかりか、血が滲んだ。

プールに入ろうものなら、傷はさらに自己主張した。

不自由極まりない傷の痛みと、見た目そのもの。

なんでもできてしまう私は、こうして不器用をも手に入れた。

傷と、その痛みのおかげで、私は自分の能力が凡人レベルに低下するのが、快感だった。

私は、自分で自分にハンデを与えてやって、ちょうどいいんだ。

ほら、私は自分を劣化させることさえ、うまくやれる。

だからこないだ、自分へのご褒美に緑のリストバンドを買った。

手首の傷が、少し悪目立ちするようになったからだ。

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