テディベアは痛みを知らない
その、痛みを自分に与えてやっている時だった。

「ねぇ君、今、病んでいるでしょう?」

まるでそういう『スイッチ』でもあるのか、とても『できた風な』笑顔。

人の警戒心の隙間という隙間をくぐり抜けた柔和な存在感で、だけど、そいつは急に現れた。

私が、手首にカッターをあてがったまま、驚いて硬直するほど、突然に。

学校の屋上に続くドア、そこまでの階段は、滅多に人が来ない。

屋上のドアは鍵がかかっているし、その鍵は先生が厳重管理、ちょっとのことじゃ貸してももらえない。

だから、一度も屋上に上がったことのないまま卒業した先輩もたくさんいた。

行くことのできない屋上に、人は向かわない。

向かわない場所へ続く階段を、人は登らない。

だからここは、屋上へ行くための階段は、私の秘密の場所だった。

自分にハンディを負わせて、上手く自分を劣化させるための。
< 4 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop