テディベアは痛みを知らない
「だ、だれ、アンタ」

今さら遅いとはわかっていても、カッターをポケットへ隠す。

その前に、

「病んでるね」

「ちょっ」

「だから傷つける」

カッターを握る左手も、リストバンドをずらして傷があらわになっている右手も、掴まれた。

両手を万歳にさせられる。

「だから、痛いんだ」

「っ」

ぐっと顔を寄せられて、思わず眉をしかめながらも、心臓が一拍脈打つのを忘れた。

目の前の男子は、とてつもなく綺麗な顔をしている。

さらさらの栗毛に、大きくて優しい眼差しは黒というよりむしろ灰色。

茶髪だけど、アメリカンショートヘアみたいな印象。

なんて、蠱惑的な顔をしてるんだろう。

くすっ、と、見とれていた私を、彼は笑った。

「ほらおいで」

私の手を掴んだまま、強引に立ち上がらせる。

その時、カッターが手から落ちた。

「君に逢わせたいヤツがいるんだ」

「な、なに、いきなり? ちょっと……!」

立ち上がらせられてわかったのは、彼が私より頭一個分、背が高いということ。

そしてその力が、細い腕のわりにとても強いということだった。
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