春の終わる日
 そりゃあ毎日のように図書館に通う人は他にもいたがどうしても彼女に目が行ってしまう。

 だってあんなに楽しそうに本を読み、その日1日を愛しそうにしている表情はなかなかない。

 僕には絶対無理な表情だ。



 だからこそ、自分と真逆に1日を大事に過ごす彼女が気になった。

 だけど声を掛けたりする勇気もなく交わした言葉なんて挨拶ぐらい。

 そんな交流とも言えないやり取りだったけど僕は何だか嬉しかった。

 別に声をかけずとも一文字一文字を大切そうに拾い読む彼女の視線、夕方に窓の外を切なげに見ながら手紙を書く顔が見れるだけで良かったから。

 毎日切なげに、そして愛しそうに手紙を書く姿を見て誰に書いているのかちょっと気になったけど僕は手紙を書く彼女の姿が好きだったからそれ以上は考えないようにしていた。
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