切ない恋のその先に
加茂川の畔で
十八年。
この町で育ってもうそんな月日が経つんだなんて、誰かに言われなきゃどっかに忘れて行きそうで。
ずっと前から変わらずにいてくれる町がそうさせてるんだね。
誇らしくも、「何してるのよ」って急かしたくもなるよ。
腰掛けた土手から向こう岸目指して投げる石。
目標よりずっと手前で落ちて消える。
食べ物と勘違いした鯉が口をぱくぱくさせてる。
加茂川の流れを目で追って、閉じて開くと浮かぶは君の顔。
逢いたいな、逢いたいよ。
駄目かな、いいよね。
電話してしまおうか?
それとも逢いに行ってしまおうか?
どうする?と問いかけても魚達は知らんぷり。
嗚呼、優柔不断。
時間はないよ、あと少しで出発だ。
震える手は緊張とまだ寒さの残る春のせい。
「逢いたい」
たったそれだけ、言ってしまえばそれでいいのに。
どうしてこんな素直になれないんだろう。
ほら目を覚ました蛙も笑ってる。
「逢いたくなった」
ただそれだけでいいんだ。
もう言えなくなるんだ。
今言わなくちゃ、伝えなくちゃ。
「加茂川の畔で待っています」
弱虫な私は真っ直ぐ伝えられなくて。
それでも君に逢えるといいな。
君ともこの町とも、お別れだ。
.