チャンドラの杯
 ぐらり、と目の前が揺れた。
「・・・・・・え?」
床に手をついた私の目に、からっぽになったお椀が映った。
『薬を盛られたねえ』
「どういう、ことですか?」
 私は貫頭衣たちを見上げた。どこに隠し持っていたのか、貫頭衣たちの手には皆包丁や棍棒が握られていた。
「久々の肉? 肉、って・・・・・・」
 私は混乱しながら村長の言葉を咀嚼した。

「肉、って・・・・・・私のことですか」

『君しかないよねえ』
 影法師が笑った。
『彼らは君を食べる気らしいよ』
 同時に、最初の痛みが来た。振り下ろされた包丁が私の背中を切り裂いたのだ。
 私は慌てて腰の刀に手を伸ばした。無い、無い。そこに在るはずの刀が無い。刀は──私は思い出す。そうだ、最初に村人に預けて・・・・・・。

 ごん、と頭に衝撃がきた。揺れる視界で、私は這うようにしながら必死に前に進んだ。
 外に出たかったけれど距離があったので、隣の部屋に続く戸口を目指した。

 肩口に振り下ろされた包丁が、骨まで食い込んで止まった。
 私は貫頭衣を突き飛ばして隣の部屋との仕切りにかけられた布に手を伸ばす。
 包丁は肩口に残った。
 夢中で引っ張るとずるり、と布が落ちる。急いで隣の部屋に逃げ込んで、私は凍りついた。
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